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STEPS OF LOVE
君が泣くのを、僕はもう、何回見ただろうか。
君が泣くとき、正しい言葉を見つけて、うまく君を励ますことのできない自分に、僕はいつも、とてもはがゆい思いをしているんだ。


僕に言わせれば、君の好きなやつは、ただのつまらない男だ。君はやつを少々買いかぶりすぎなんだ。やつと友人の僕が言うんだから、間違いない。もっとも、男なんて、たいていは単純で、つまらない生き物だけれど。
もちろん、こんなことを思っている僕だって、ただのつまらない男だということは、自覚している。
でも、やつと僕には、大きな違いがある。
それは、僕なら、君を絶対に泣かせたりしないってことなんだ。


1年前の春から、君に片思いをしていた。
サークルの男連中の間では、正直な話、君の人気は中の中あたりだった。
だから安心していた、って訳ではないけれど。僕は、なかなか気持ちを伝えられずにいたんだ。


夏休みがあけると、君は何だかきれいになっていた。
僕が実家に戻って自動車免許取得に燃えていた頃、やつは君を映画や食事や遊園地や花火大会に誘い、君はやつを好きになっていたんだ。
後悔先に立たず。改めて、僕はその諺の真理を学んだような気がする。受験勉強をなまけて第一志望の大学に落ちたときだって、これほど打ちのめされなかったっていうのに。


学園祭準備で追われていた秋のある日、僕は偶然、君が一人で泣いている場面に出くわした。
君は人気のない実験棟の北階段に座り、携帯電話を握り締めていた。
僕は気づかない振りをすることに失敗し、君は照れ隠しのつもりか、
「喧嘩しちゃいました」
と聞いてもいないのに白状した。
他愛もない、いわゆるのろけの裏返しのようだった喧嘩の理由が、だんだん深刻に聞こえてくるようになったのは、いつ頃からだろう。


今年。夏休みが始まる少し前、君はやつと別れてしまった。
どちらから切り出したのだろう。やつは何も言わない。やつはつまらない、ただの男だけれど、そういうところは男らしいんだ。
そして、僕はこの夏、一つの決心をした。いつもはかかってくるのを待つばかりだった、君の電話番号。
ディスプレイを長い間見つめてから、大きく息を吸い、僕はコールボタンを押した。


誘っておいて、君とうまく話もできない自分に、僕はつくづくうんざりしていた。
やつの話題に触れないようにすればするほど、僕と君との間には、話題がほとんどなくなってしまうのだ。
次々に打ちあがる花火を、実験棟の屋上から、僕達はただ黙って見ていた。


時々、ひときわ明るい花火が上がり、君の横顔を照らす。
君は微笑みながら、花火に見入っている。


君がその花火に何を思っていたのかは、分からない。
ただ僕は、君の泣き顔よりも笑顔が見たくて、この花火大会がいつまでも終わらなければいいと、思っていた。


---コメント---


「STEPS OF LOVE」、今年のツアーで聞くことができてとても嬉しかった曲のひとつ。
竹善さんの伸びやかな声がとても素敵です。
歌詞に「夜空に舞い上がる 瞬間(ひととき)は」というフレーズがあり、そこから花火を連想してみました。
ちなみに、この曲はSING LIKE TALKINGの4THアルバム、「0(ラブ)」に収録されていますが、
コンサートのMCでは竹善さん、いつもこの時代までを、
「SING LIKE TALKINGの暗黒時代」と言ってます(笑)。

STEPS OF LOVE(SING LIKE TALKING)
CHIAKI FUJITA/CHIKUZEN SATOH
SINGLE--1991/02/01
ALBUM--
0(ラブ)(1991/04/25)
SECOND REUNION(1998/09/30)
by sivaxxxx | 2004-03-01 01:19 | かく


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