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20years
その友人の家は、公園の真ん前にあった。
小さい頃はここでいつも遊んでいたんだ、と彼は言った。


学校から帰ってくるとランドセルを放り出し、すぐにこの公園に向かう。
当然ながら、公園に一番乗りするのはいつも彼だ。
彼は仲間たちが集まってくるまで、ブランコに乗ったり、ジャングルジムに登って時間を
つぶしていたという。


ブランコを立ちこぎして、両足にうまく力を入れるとどんどん振り幅が大きくなる。
このままぐるっと一回りしてしまうのではないかというくらい、高く高くこぐ。
ジャングルジムでは一番上まで一気に登り、てっぺんに腰かける。
ポケットに忍ばせたガムやキャラメルを食べながら、やがて道路を駈けて駆けてくる仲間たちに
手を振って合図する。


何時間遊んでも遊び足りなかった。
どれだけ走りまわっても、疲れなんて感じなかった。
どうして空はあっという間に暗くなるのだろうと思っていた。
夏の日は、このくらいの時刻になるとコウモリが飛び始める。
その頃になると、そろそろ帰る、と言い出すヤツがいる。
明日になればまた学校でも会えるのに、なぜか何となく離れがたい気持ちで、
「じゃあな」「またな」と何度も繰り返しながら、それぞれが公園から散って行く。
いちばんに家に着くのも、もちろん彼だった。


懐かしいな。彼はブランコに腰かけて、何度も繰り返した。
昔は本当に高く高くこげたんだ。何だか言い訳がましい彼の口調に、私は笑ってしまう。
ジャングルジムにも登ってみた。
彼は革靴、私はスカートにパンプスだったので、滑りそうでひやひやした。
何とかてっぺんにたどり着き、細い鉄の棒に二人並んで座る。
座り心地はこれ以上ないというくらい悪いのに、なんとなく落ち着くのはなぜだろう。
私も彼も何も言わず、長い時間、ただ黙って座っていた。


来週から、この公園は取り壊しの工事に入ることが決まっている。
すべての遊具が撤去され、更地になった後、ここにはワンルームマンションが建つそうだ。
by sivaxxxx | 2005-02-06 22:22 | かく


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