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甘党では、ないけれど。
<嗜好品>
直接 食欲を満たすための食べ物ではなく、毎日の生活にうるおいとゆとりをもたらすものとして口にして楽しむ、人それぞれに異なる好みの品。

例えば、タバコが好きな人にとっては、それは健康に害をもたらすもの以上に、自分に何かプラスになるものを与えてくれる役割を持っている。
何かをじっくりと考える時、ぼんやりしたい時、嫌いな人には不快なだけの煙が、その人にとっては、この上なくすばらしいアイデアをもたらしてくれる存在かも知れない。
(ま、大前提として、マナーは守るべきですが)

お酒もそう。何でわざわざそんなものを飲むのか、理解できない人も少なくないと思う。私もたまに飲みすぎて、「もうお酒とは仲良くしない」と一方的に絶交を宣言したりするのだけれど、そんな決意はすぐにどこかに行ってしまい、またふらふらと飲み歩いたりしている。

このような嗜好品が、健康に良くないという理由で全面禁止になったら、どうなるだろう?
本当にみんな健康で長生きできるようになるかと言えば、当然そんなことはなく、却ってストレスがたまって具合の悪い人が続出するに違いない。
少なくとも、私は、そう。

「チョコレート・アンダーグラウンド」
選挙で大勝した「健全健康党」の政策によって、チョコレートを始めとした甘いものが全て禁止とされる、その日。
この世の終わりのような思いで、最後のチョコレートを見つめる二人の少年、スマッジャーとハントリーが、この話の主人公である。

「おれのせいじゃない。おれはやつらに投票しなかった」
大人たちは言い訳する。
実際、健全健康党が圧勝したのは、多くの大人たちが彼らに投票しなかったせいだ。
大人たちは確かに、健全健康党には投票しなかった。けれども、他の政党にも投票しなかった。
文字通り、何もしなかったわけだ。

このままチョコレートが食べられなくなるなんて。
スマッジャーとハントリーは、どうしても諦めることができなかった。
法律に触れると分かっていても、素直に諦め制度に従うことができなかった。
二人は情報を集め、信じられる大人たちを仲間に巻き込んで、チョコレートの密造販売を始めてしまう。

子供らしい単純さと、子供らしい盲点。
二人がチョコレートを密造していることは、やがて健全健康党員の知るところとなる。
それでも二人は諦めない。
チョコレートが食べたい!その一心で、やがて二人は、世の中自体を変えようと立ち上がるのだった。

一見児童書のような装丁(とてもかわいらしい、チョコレート色の本。本文もチョコレート色)だけれど、大人が読んでも十分読み応えはあると思う。
他愛ない話と言えば、それまで。
でも、最後の方は、本を持つ手に力が入った。
何かを成し遂げようとするまっすぐな気持ち。子供の頃は誰もが持っていたはずの強い思い。
その対象が、スマッジャーとハントリーにはチョコレートだったというだけで、誰にだって譲れないもの、というのは、きっとあるはずだ。
いちばんいけないのは、何も変わらないから、と初めから諦めてしまうこと。
実行するのは難しいけれど、やってみる、チャレンジしてみる、という気持ちは、忘れたくない。これからも。

ちなみにこの本の訳者、金原瑞人氏は、あの芥川賞作家の金原ひとみのお父様、とのこと。
おまけで表紙の絵と同じ「BOOTLEG(密造する)」ステッカー付きです。これ、カワイイ。
by sivaxxxx | 2004-06-21 21:39 | よむ


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