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センセイの鞄
センセイの鞄

「椰子・椰子」という摩訶不思議な本を読んでからこの川上弘美という人の本に夢中になった。何年か前、「蛇を踏む」という、これまた奇妙な題名の短編で芥川賞を受賞したことは知っていた。読んでみたいな、とは思っていた。でも芥川賞という響きに、何となく堅苦しい純文学を思い浮かべて手に取るまではいかなかった。調べてみると96年の受賞らしいので、なんと8年間も気にし続けていたことになる。もっと早く読んでみればよかった。ああ、もったいない。
「センセイの鞄」は、表紙が淡いベージュで、装丁が暖かい。そっとページをめくってみたくなる手触りだ。
主人公のツキコさんは、30代後半のOLで、駅前の一杯飲み屋の常連である。もう何年も通っているらしい。
その一杯飲み屋で出会うのが、ツキコさんの高校時代の国語担当だった、松本先生だ。
ツキコさんは松本先生のことを「センセイ」と呼び、センセイは「ツキコさん」と呼ぶ。二人の生真面目な言葉使いは、先生と元生徒という関係ゆえだろうが、そこには気持ちのよい緊張感がある。
センセイはツキコさんに向かって、「キミは女のくせに一人でこういう店にくるんですね」などと失礼なことを言う。私なら、「それが何か?」と眉毛を吊り上げるところだが、ツキコさんはただ「はあ」と言いながらお酒を飲むばかりだ。
ツキコさん曰く、「肴の好みと、人との間のとりかたが似ている」二人は、その一杯飲み屋でちょくちょく会い、一緒にビールや日本酒を飲み、何軒かはしごしたあと、センセイの家でしめくくる、という飲み友達の関係を暖めていく。
 たまには些細なことで仲違いをしたり、居酒屋のご主人のサトルさんたちとキノコ狩りに出かけたりもする。居酒屋の客に心ないことを言われることもある。二人をめぐる小さなエピソードは一つ一つが初々しく、まるで初恋の描写を読んでいるような気がしてくるが、これは十分すぎるくらい大人の二人の話なのだった。いや、十分すぎるくらい大人の二人だからこそ、かえってこんなに初々しいのか。 ツキコさんもセンセイも、十分な大人のくせに何だかとても不器用だ。
二人はゆっくりゆっくり、「あわあわ」と時間を過ごしていく。ニュアンス的には「淡々」と書いて「あわあわ」と読むのだろうか?少し浮世離れしたような二人の会話は「たんたん」というより、「あわあわ」の方がしっくりくるような気がする。
by sivaxxxx | 2004-04-08 22:22 | よむ


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