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勝手に挑戦状を受け取ってみる。
誰に頼まれたわけでもないのに、勝手にRちんの挑戦状を受け取ってみました。
裏江場祭に、チャレンジ。


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時刻は深夜一時をまわっていた。
料金を払い、タクシーから降りる。
くたくたに疲れた体を引きずるようにして、ようやく家に帰り着いた。


自分自身を痛めつけるような日々。
ぼんやりとした頭は疲労の海の底にあり、既に何も考えられなくなっている。
空腹を感じてはいたが、睡眠への要求の方が断然強かった。
シャワーすら後回しにして、僕は崩れるようにベッドに倒れこむ。


20代の頃に抱いていたのは、こんな毎日ではなかった。
誰もが思わず笑顔になるような写真を撮りたい。
そんなビジョンを持って、僕はこの社会に勢い良く飛び込んだ出たはずだったのに、実際はどうだ?
若いタレント達のスキャンダルを追い回し、決定的な瞬間をカメラにおさめる、そんな仕事ばかり。
人の秘密を暴く。その報酬で、僕の生活は成り立っている。
僕の写真を見て、笑顔になる人はいない。





目が覚めると昼をとうにまわっていた。
まったく疲れが取れた気はしない。それどころか、蓄積するばかりだ。
ゆらりと体を起こし、とりあえずきちんと目を覚ますため、リモコンをとり、テレビをつける。


ちょうどワイドショーの放送時間だった。
記者会見の中継らしい。
質問攻めにされているのは、僕が先週まで追いかけていた若手の人気女優だ。
僕は丸2週間張り込み、彼女があるミュージシャンの住むマンションに入っていく姿をカメラにおさめた。
その夜はずっと張り込んで、明け方、彼女が人目を忍んで出て行く瞬間もキャッチした。
その時の写真は、早速週刊誌に掲載され、『熱愛発覚』という見出しが駅の売店や、電車の釣り広告に踊ったのだった。
それが2日前のこと。


「・・・さんとは、どういうご関係なのですか!?」
「お付き合いされているのですか!?」
口々にレポーターが発する質問は、覗き見趣味の何とも品がないものばかりだ。
これが、僕の仕事だ。自分に、何度も言い聞かせる。
罪悪感、そんなものを感じていては、このような仕事を何年も続けられない。


「お付き合い?ええ、しています。彼は大事な人です」
コーヒーを入れようとキッチンに立っていた僕は、その言葉に思わず顔を上げる。
テレビ画面の向こうの彼女は、きっぱりとした表情で続けた。
「あの写真を撮られたおかげで、これからは堂々と、二人で出かけることができるようになりました。
もうこそこそしなくてもいいんだと思って、かえって、感謝しているくらいです」
「それは、交際宣言ということですね!?」
「結婚も、考えているということですか!?」
より一層ざわめきだしたレポーター達。
慌てて会見の打ち切りを宣言する関係者達に背中を押されながら、彼女は、とびきりきれいな微笑を返し、その場を去っていった。


画面はCMに切り替わる。
化粧品のCM、出ているのは彼女だ。カメラ目線で、美しく微笑んでいる。
その笑顔が、何だか僕に向けられたような気がした。
・・・というのは、大きな勘違いにしても。
僕の仕事が、たとえたった一人でも笑顔にすることができたのは、本当だ。


できたてのコーヒーの香りが、何だか食欲を誘う。
夢と現実との距離は、まだまだ遠いけれど。
あんなにずっしりとのしかかっていた重い気持ちが、ほんの少し、軽くなったような気がした。





☆★☆ ☆★☆ ☆★☆ 裏江場祭 テンプレ ☆★☆ ☆★☆ ☆★☆
文豪とはちがう目線・感性で、あなたも激短小説家!!
プロット読んでかき揚げ丼、ドンドン丼ぶりおいしいな♪

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江場中祭実行委員会:ダーサ(善哉)の館
〆切: 12月12日まで。
☆★☆ ☆★☆ ☆★☆ 裏江場祭 テンプレ ☆★☆ ☆★☆ ☆★☆

ちゃぶ台、投げないでくださいっ。
by sivaxxxx | 2004-12-05 21:29 | かく


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